国公立大、私大を問わず、医学部の入試英語には医学・医療およびその周辺に関する話題が出題されることが非常に多い。ここでは、慶応大学・医学部に出題された英文読解問題を取りあげてみる。実力をはかるには良い問題だから、チャレンジしてみよう。制限時間は慶応大学・医学部の英語全問題の制限時間から割り出したもの。一応の目安にしていただきたい。

次の文章を読み,設問に答えなさい。
(制限時間25分。なお、実際の問題には末尾に英々辞典による語注がある。下記Notes参照)
My father has chronic pneumonia that many rounds of antibiotics couldn’t clear up. Twice in the past year, an ambulance had to be called to haul him to the hospital for suctioning procedures that he found dreadful, and after talking it over with my mother,(1) he decided he wouldn’t go down that road again. He was brought home and put on hospice care, and the decision was made to take him off antibiotics. They simply weren’t doing him any good. There were e-mail exchanges about this decision, which seemed grave, and my mother and sister notified the funeral home, and (2) my brother began to plan the service, and Dad went off the antibiotics and got a little better. That was a few weeks ago.
The handbook on dying that the hospice gave us advises you to forgive the dying person and express your love and your gratitude, and to say goodbye ― as a gift to the person and to yourself. (3) It doesn’t explain how to do this with someone who is extremely hard of hearing and who, even when he could hear, never went in for such declarations. And what about all those things you’re not sure whether to forgive or feel grateful for?
The best gift I can give my father is to bring my daughter to visit him. She touches his foot, and he wiggles his toes. She throws a ball at him; he throws it back. She smiles a beatific smile. She kisses his hand and his cheek. She waves good-bye. She has no words for this. It is pure love. She is three, the age I was when he wrote a letter to me and my brother and sister in 1945 from New York, saying how much he missed us while he was in the Army, billeted in a hotel at Broadway and 29th. He thought about us every day, he said, and wished we could be with him but didn’t think it wise for children to grow up in a city among so many people. It was signed, “Love, Daddy.” (4) I never saw the letter ( a ) a week ago. It never ( b ) to me ( c ) he loved me, but of course he ( d ), and it was nice to hear about it ( e ) last.
設問
1 下線部分(1)について誰が何をしたのか具体的に説明しなさい。
2 下線部分(2)について誰が何をしたのか具体的に説明しなさい。
3 斜字体の語の指すものがわかるようにして、下線部分(3)を和訳しなさい。
4 下線部分(4)の空所( a )~( e )にそれぞれふさわしい1語を入れて完成しなさい。
問題Notes
- antibiotics: noun [usually pl.] a substance, for example penicillin, that can destroy or prevent the growth of bacteria and cure infections
- beatific: adjective (formal) showing great joy and peace
- billet: verb [V+adv. / prep.] [usually passive] to send soldiers to live somewhere temporarily, especially in private houses during a war
- chronic: adjective 1 (especially of a disease) lasting for a long time; difficult to cure or get rid of 2 having had a disease fo
- r a long time 3 (BrE, information) very bad
- haul: verb 1 [VN] to pull something / somebody with a lot of effort 2 [VN+adv. / prep.] ~ yourself up / out of etc. to move yourself somewhere slowly and with a lot of effort 3 [VN+adv. / prep.] to force somebody to go somewhere they do not want to go 4 [VN] [usually passive] ~ somebody (up) before somebody / something to make somebody appear in a court of law in order to be judged
- hospice: noun a hospital for people who are dying
- pneumonia: noun [U] a serious illness affecting one or both lungs that makes breathing difficult
- suction: noun 1 the act, process, or condition of sucking 2 the force that, by a pressure differential, attracts a substance or object to the region of lower pressure 3 the act or process of producing such a force verb to draw out or remove by aspiration
- wiggle: verb (informal) to move from side to side or up and down in short quick movements; to make something move in this way(Adapted from Oxford Advanced Learner’s Dictionary of Current English 6th ed.)

出典
2003年 慶応大学・医学部
解答例
- 慢性肺炎を患っていた筆者の父親が、抗生物質の投与を拒否し、不快な吸引措置を受けなくてすむようにしようと決断したということ。(20点)
- 筆者の兄が父親の葬式の段取りを考え始めたということ。(15点)
- だが、ホスピスが私たちにくれた死にゆく人を送るにあたっての手引書には、今は耳がひどく遠くなり、まだ耳が聞こえていたときですら、こちらがたとえ許しや愛や感謝の気持ちを表したとしても耳を傾けようとしなかった人間に対して、どのようにしてそのような許しや愛や感謝の気持ちを言い表したらよいかの説明はない。(40点)
- ( a ) until ( b ) occurred ( c ) that ( d ) did ( e ) at (25点)
自己採点基準
100点満点。自己採点基準は一応の目安である。日本語の表現が不自然な場合や論理的なつながりがおかしい場合は適宜減点する必要がある。
1
- 「誰が」 =「慢性肺炎を患っていた筆者の父親が」 ― 5点
- 「何をした」=「抗生物質の投与を拒否し、不快な吸引措置を受けなくてすむようにしようと決断した」― 15点
(注)「抗生物質の投与」(5点)と「吸引措置」(10点)2つが出ていて正解である。
2
- 「誰が」= 「筆者の兄が」― 5点
- 「何を」= 「父親の葬式の段取りを」― 5点
- 「したのか」= 「考え始めた」― 5点
3
- It doesn’t explain how to do this with someone の和訳 ― 20点
(注)「Itの指すもの」= 「ホスピスが私たちにくれた死にゆく人を送るにあたっての手引書」― 3点
「this」= 「許しや愛や感謝の気持ちを表すこと」― 12点
「許し」、「愛」、「感謝」にそれぞれ3点を与え、合計で9点。「気持ちを表すこと」に3点。
- who is extremely hard of hearing の和訳 ― 5点
- who, even when he could hear の和訳 ― 5点
(注)内容から判断して、この文のcouldは過去形であって、仮定法ではない。もし仮定法に和訳したら、0点である。
- never went in for such declarations の和訳 ― 10点
(注)such の指すものは「許しや愛や感謝の気持ちを表すこと」。ここに6点、他の部分に4点をあてがう。
4
慶応大学・医学部は、東大の医学部とならぶ、全国でも最難関の医学部である。それに恥じず、英語の問題も良問ぞろいである。私大では珍しく、英作文に非常に力を入れていて、年によって若干の違いはあるものの、自由英作文を含む英作文の問題が通常2題出題される。参考までに、2003年に出題された自由英作文の問題を示しておこう。
あなたはcell phones (mobile phones) の利用をどう思うか。次の文の内容と関連させて賛成・反対のいずれかの立場から,100語程度の英語で述べなさい。(制限時間25分)
Millions of people are using cell phones today. In many places it is actually considered unusual not to use one. In many countries, cell phones are very popular with young people. They find that the phones are more than a means of communication ― having a mobile phone shows that they are cool and connected.
The explosion around the world in mobile phone use has some health professionals worried. Some doctors are concerned that in the future many people may suffer health problems from the use of mobile phones. In England, there has been a serious debate about this issue. Mobile phone companies are worried about the negative publicity of such ideas. They say that there is no proof that mobile phones are bad for your health.
この問題も医学・医療に関するものである。携帯電話会社は、携帯電話は安全で、人体に危害を及ぼすことはないと言っているが、果たしてそうなのか。会社の営利に悪影響を及ぼすことから本格的な調査を怠っているのではないか。危害がないと言っているが、安全基準はどうなっているのか。非常に高いところに設定してはいないか。最近は電磁波過敏症という病名があるが、それは携帯電話にも該当するのではないのか。
こういったことを考えていくと、日本で携帯電話が健康に及ぼす影響についてまったくと言ってよいほど議論されていないのは驚きである。上の問題はそのような間隙をついている問題といえよう。(なお、この問題の解答例については、「自由英作文対策」を参考のこと)
さて、自由英作文についてはこれくらいにして、英文読解の問題に戻ることにしよう。
慶応大学・医学部の英語問題は、他学部と異なり、すべての問題の終わりに本文中のやや難しいと思われる英単語にNotesがついている。英々辞典から引用してきたものだ。単語に複数の意味がある場合に本文中に出てきた単語の意味だけをNotesに出しているわけではなく、複数の意味すべてを掲載している。従って、受験生はその中から本文にふさわしい意味を選択する必要がある。
また、英文和訳をする必要がある場合には、Notesによって英単語の意味がわかっても、日本語としての適切な和訳が浮かぶかどうかは別の問題である。つまり、注意していただきたいのは、Notesがあるからと言って決して安心はできないということだ。日頃から英々辞典に慣れるだけでなく、医学部受験に必要な必須単語は地道に覚えていく必要がある。では、各問についての解説をしよう。

-
下線部分(1)を直訳すると「彼はその道を二度と行くまいと決心した」。この場合の「道」は比喩である。road には「手段」、「方法」の意味もあるから、本文の文脈と付き合わせれば、何らかの「治療法」であることがわかる。「行くまい」と決心したからには、あまり好ましくない治療法と推測されるから、直前の肺から膿などを排出する吸引措置が入ることは間違いないところ。問題は、このような不快な措置を受けざるをえなくなった原因とみられる抗生物質の投与も含めるべきかどうかだ。結論から言うと含めるべきである。なぜなら、さらに先を読むと、筆者の父は最終的に抗生物質の服用をやめると決断しているからである。
-
この問題は service の意味がわかっているかどうかたずねているものだ。直前に the funeral home (葬儀場)とあるから、この場合の service は funeral service (葬式) の意味。従って、兄が葬式の段取りを考え始めたことをいっている。
- 文頭のIt は「ホスピスがくれた手引書」を指す。this は形式的に考えれば、前文中の to forgive the dying person and express your love and your gratitude, and to say goodbye の部分を指すが、この文の後のほうにある such declarations 及び次の文中の whether to forgive or feel grateful for と付き合わせて絞りをかける必要がある。死にゆく人に向かって to say goodbye と declaration することは、安楽死を実行するならともかく、通常は穏当な話ではない。従って、to say goodbye は除外すべきである。to forgive the dying person の部分は入れるべきである。なぜなら、次の文 And what about all those things you’re not sure whether to forgive or feel grateful for? (下線部 forgive に注意) は、内容的には下線部分(3)の続きであるから。
-
下線部分(4)は単純な穴埋め問題ではない。この英文の全体の流れがよくわかって初めて解答できるものだ。下線部分(3)には、筆者の父親は許しや愛や感謝といったことに進んで耳を傾けるような人ではなかったと書いてあるが、実はこれは表面上のことであって、内実は子供思いの感情表出の豊かな人であったことがわかる。筆者が3歳のとき、父親は軍隊に徴用されてニューヨークのホテルに宿泊しているが、そのとき筆者を含む自分の子供たちに向けて愛情豊かな手紙を書き送っていた。筆者はその手紙を一週間前に初めて見せられて、父親の本当の姿を知ったのである。以上のような流れが理解できれば、下線部分(4)の問題は必ずしも難しい問題ではない。
( a ) について。筆者がこの手紙の存在を前から知っていたら、下線部分(3)で述べているように、父親を感情表出の豊かでない人だと形容することはなかっただろう。だから、この手紙は最近見たものでなければならないから until が入る。
( b ), ( c )について。この手紙の中で筆者は父親が自分たち子供を非常に愛してくれていたことが初めてわかった。だから、It never occurred to me that he loved me となる。occur to somebody で「人の頭に思い浮かぶ」の意味。
( d )について。didが入るがこれは loved me の代動詞。

- chronic pneumonia = 慢性の肺炎。
- many rounds of antibiotics = 何回もの抗生物質。round はこの場合、一回、二回の「回、回数」の意味。
- clear up = 解決する; (病気を)治す。
- haul = 強く引く; (車で)連れて行く。
- suctioning procedures = 吸引措置。suctioning は動名詞の形容詞的用法で「吸引するための」意味。吸引措置は肺にたまった膿を抜き出すこと。
- that he found dreadful = それを彼は恐ろしいと思った。that は関係代名詞で suctioning procedures が先行詞。
- talk ~ over = ~をじっくりと話し合う。
- put somebody on hospice care = 人にホスピスケアを受けさせる。hospice は治る見込みのない末期患者が安楽に死を迎えることができるようにするための病院施設。
- take him off antibiotics = 彼に抗生物質を投与しない。直訳は「彼から抗生物質を引き離す」。
- do somebody good = 人に益を及ぼす。なお、ここに出てくる副詞の simply は否定語と一緒に使用されると「まったく、全然」の意味となり、否定語を強める働きをする。
- which seemed grave = because it seemed grave = それは重大に思われたから。which は関係代名詞で先行詞は this decision。この場合の関係代名詞は理由を表していると考えられるので、because it seemed grave と書き換えて考えると理解が明瞭になる。
- hard of hearing = 耳が遠い。
- go in for ~ = ~しようとする、進んで~しようとする。go in for ~ には「(試験・試練などを)受ける」などの意味もあるが、ここではそのような意味ではない。
- what about ~ ? = ~はどうなのか。手引書に書かれていない事柄について、これはどうなのか、と疑問を呈しているのである。
- wiggle = 小刻みにふるわせる。
- She is three, the age I was when … = この構文はやや複雑である。まず three と the age が同格であることをおさえよう。その後がどうなるかが問題であるが、結論から言うと、the age (that) I was when …と関係詞thatを補って考えるとよい。この関係詞は目的格補語である。つまり関係詞を使用しない通常の文なら I was the age when …(私は…のときは、その年齢であった) となる。この the age は主格補語、その代わりをしているのが省略されている関係詞thatである。この構文を理解するには、名詞が2つ接続詞なしに並んだら(例えば、「名詞A, 名詞B」のように)同格構造になることが多いということ、We are the same age. (私たちは同じ年齢です)、He is no longer the kind man he was.(彼はかつてのような優しい人ではない)の2つの英文が頭に浮かべば解決できる。念のために付け加えておくと、He is no longer the kind man he was. は He is no longer the kind man (that) he was. と主格補語の関係詞が省略されている文である。
- miss somebody = 人がいなくてさびしいと思う; 人を恋しく思う。
- billet = 宿舎を割り当てる。本文では billeted になっているがこれは分詞構文である。being billeted と being を補って考えるとよい。
- (he) didn’t think it wise for children to grow up in a city among so many people = この文はSVOCの文型。S = he , V = didn’t think, O = it, C = wiseである。なお、it は to grow up in a city among so many people を代表する形式目的語。


私の父は慢性の肺炎にかかっているが、何度も抗生物質を投与しても治すことはできなかった。この一年の間二度、吸引措置をほどこすために救急車を呼び、病院に運びこまなければならなかったが、この措置に恐れをなした父は、母とこの問題をじっくりと話し合った後、(1)二度とこの方法はとるまいと心に決めたのであった。父は家に連れ戻され、ホスピスケアを受け、そして父には抗生物質は使用しないという決断がなされた。抗生物質は父に何の益もたらしていなかったのだ。この決断は重大だと思われたから、電子メールで情報のやり取りが行なわれ、母と姉は葬儀場に連絡をし、(2)兄は葬式の段取りを考え始めたのだが、抗生物質をやめて父は少し良くなった。それは一週間前のことである。
ホスピスが私たちにくれた死にゆく者を送るにあたっての手引書には、死にゆく者と家族自身への贈りものとして、死にゆく者を許し、死にゆく者に愛と感謝の念を表し、そしてさよならを言うようにとの助言が書かれている。(3)だが、その手引書には、今は耳がひどく遠くなり、まだ耳が聞こえていたときですら、こちらがたとえ許しや愛や感謝の気持ちを表したとしても耳を傾けようとしなかった人間に対して、どのようにしてそのような気持ちを言い表したらよいかの説明はない。また、許すべきか感謝すべきか定かではないもろもろの事柄についてはどうしたらいいのか。
私が父にあたえることができる最良の贈り物は私の娘を見舞いにやることである。娘が父の足に触れると、父はつま先を小刻みに動かし、娘が父にボールを投げると、父はそれを投げ返す。娘は至福の微笑を浮かべ、父の手と頬にキスをする。そして娘はさよならと手を振る。こういったことをするのに娘に言葉など不要だ。それは無垢の愛である。
娘は三歳である。私がこの年齢のとき、父は1945年にニューヨークから私と兄と姉に手紙をよこし、それには、こうして軍隊にいて、ブロードウェイと29番街の角にあるホテルに宿泊していると、お前たちが恋しくてたまらないと、書いてあった。父は、私たちのことを毎日思っている、できることなら、私たちが一緒ならいいのだが、子供たちがこんなに人の多い都市で育っていくことは賢明なことではないと思う、と書いてあった。その手紙には「愛をこめて、パパより」との署名があった。(4)私は一週間前に初めてその手紙を見た。父が私を愛してくれていたなどとは思いもよらなかったが、もちろん父は私を愛していたのであり、最後にそのことを耳にすることは素敵なことだった。

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