典型的な要約問題は、通常、「本文の英文の内容を100字以内の日本語で要約せよ」、「本文の英文の要旨を70字以内の日本語でまとめよ」といった問い方をする。しかし、このような問い方をしていない問題、例えば、「本文の下線部分を説明せよ」といった形式の問題にも実質的に要約問題が含まれている場合がかなりある。
このように考えると、英文要約問題は、東大、一橋大、横浜市立大などの一部の国公立大学だけでなく、難関私大などにもごく普通に出題されている問題形式であることがわかる。まず、最初に以上のことを認識していただきたい。また、自分が受験しようとしている大学の過去の問題には要約問題が出題されていなくても、問題傾向が突然変わり、要約問題が出題されるようになることもある。油断は禁物である。
なぜ、要約問題にことさら注意を払い、練習をしなければならないのか。それは、要約問題は配点が比較的高く、受験生間で点差が開きやすいので、合否にかなり影響を及ぼすからである。要約問題でしくじると挽回することがかなりむずかしい。だからこそ、日頃から英文を読んでいるときにパラグラフを要約する練習をし、ときには時間をはかって制限時間内で本番の問題か類似問題を解いてみることが必要なのである。
ここでは2003年に出題された東大の問題を扱ってみよう。

次の英文の内容を,60~70字の日本語に要約せよ。句読点も字数に含める。
There are estimated to be about 5,000 languages currently spoken in the world today, depending on which you count as dialects and which as distinct languages. To these, you can perhaps add a handful of ‘dead’ languages that are still taught in schools (ancient Greek and Latin) or used in religious services (Sanskrit and Ge’ez). Linguists expect that well over half of all these languages will become extinct, in the sense of having no native speakers, within the next half-century. They are mostly languages which currently have fewer than a thousand native speakers, most of whom are already elderly. The time may come, it has even been suggested, when the world will be dominated by just two languages; on present performance, these will almost certainly be English and Chinese. The loss of all these languages will, of course, be a pity. As we lose them, we lose fragments of our past, for languages represent the history of peoples, the accumulation of their experiences, their migrations and the invasions they have suffered.
But this observation overlooks one curious feature of human behaviour: our tendency to generate new dialects as fast as we lose others. English has spread around the globe to become the common language for trade, government and science, as well as the national language of countries on every continent; yet, at the same time, many local dialects have developed whose speakers can hardly understand each other. Most linguists now recognize Pisin (the ‘pidgin English’ of New Guinea), Black English Vernacular (a form of English mainly spoken by blacks in the major cities of the US), Caribbean Creoles (the English of the various Caribbean islands) and Krio (the Creole of Sierra Leone in West Africa) and even Scots (the English spoken in the Scottish lowlands) as distinct languages.

出典
2003年 東大
解答例
世界の言語の大半はやがて消滅するとの予測があるが、この予測は、英語の方言から多数の独立した言語が生まれている事実を看過している。(64字)
自己採点基準
50点満点。日本語の表現が不適切な箇所は適宜減点すること。
- ●世界の言語の大半はやがて消滅するとの予測がある。-- 15点
- (注)「世界の言語はやがては英語と中国語の2言語に支配される」を付記しても減点はされないが、字数が足りなくなるだろう。
- ●この予測は事実を看過している。-- 10点
- (注)表現としては、「この予測は間違っている」といったものでもよい。
- ●英語の方言が発達し、多数の独立した言語が生まれているから。-- 25点
- (注)「独立した言語」の部分に15点。「英語の方言が発達し」に10点。表現は多少異なっていてもよい。

英文はその内容に応じて、物語・小説、説明文、論説文と3つに大きく分けることができるが、要約問題に出題される英文は圧倒的に論説文が多いので、ここでは論説文に的を絞って、解説をする。
まず「論説文とは何か」を考えておこう。この問題を考えるために最初にアリストテレスの『弁論術(Rhetoric)』の一節を紹介しておこう。
“Of the modes of persuasion furnished by the spoken word there are three kinds. The first kind depends on the personal character of the speaker; the second on putting the audience into a certain frame of mind; the third on the proof, or apparent proof, provided by the words of the speech itself.”
(話し言葉によって与えられる説得の形式には3つの種類がある。最初のものは、話し手の人格に依存している。2番目は聴衆をある心理状態に置くことに依存している。3番目は話そのものによって与えられる証明、もしくは証明らしく思われるものに依存している。)
弁論術とは公開の場で複数の人たちがある論題について相手を説得して自分の考えが正しいことを証明する技術だが、この技術について述べられていることは書き言葉によって相手を説得する論説文にもかなり妥当するだろう。
さて、引用箇所の内容だが、人を説得する方法には3つあるとしている。第1の形式は話し手の人格に依存するものだ。これは「この人は立派な人だから、この人の言うことは信用しよう」といった場合を指す。第2の形式は聴衆の心理状態が特殊な雰囲気にあって、思わず話し手の言うことを信じてしまうというような場合である。第3のものは話の内容だけで相手を説得しようとするものである。
私がアリストテレスの一節を引用したのは、当然のことながら、論説文とは上記の第3の種類のものと同じであることを言いたかったためだ。書かれている内容だけで相手を説得しなければならないのである。つまり、論説文とは、論者の人柄や聴衆の心理状態といった主観的事情に頼らずに、帰納(例証)や演繹(合理的な推論)という方式を使い、客観的に自分の主張を相手に説得しようとする文のことである。
では、なぜ自分の見解を主張しなければならないのか。それは自分とは異なる見解(よく「通説」と言われる)が世の中にまかり通っているために、それを論破して(論理的に打破すること)自分の見解が正しいことを証明する必要があるからだ。もしある見解が万人の一致して認めているものなら、誰かが「この見解は正しい」とことさら主張する理由も必要性もない。論説文とは「ある事柄について複数の見解がある場合に、帰納や演繹によって相手を説得し、真理もしくは真理らしきものを求めて闘う文」といえよう。簡単にいうなら喧嘩である。
しかし、これは真理を求めての喧嘩であるから、不毛な喧嘩ではなく、建設的な実り豊かな喧嘩である。この喧嘩に勝った者は、あらためて自分の主張が正しいことを確認し、真理の確証を得ることができるだろう。一方、喧嘩に負けた者は、恥をかいてくやしい思いをするだけに終わるものではない。負けた者は、勝った者以上に、自分の論理のどこがいけなかったかを猛省するから、勝者以上に真理を深く胸に刻みつけるかもしれない。
さて、論説文とは何かがわかると、論説文の段落の構成も透けて見えるようになる。論説文とは通説に喧嘩を挑んでいるわけだから、最初にその喧嘩の相手を紹介する必要がある。従って、通常、論説文では最初に通説が紹介される。次に「通説の見解はここがおかしいよ」という論破が行なわれる。そして、その論破を効果的に行なうために、相手を納得させるような例証や論拠をあげることになる。以上をまとめると、論説文の典型的な流れは次のようになる。
通説の見解を紹介する → それを、例証や合理的な推論をかかげて論破する
では、以上の論説文の考え方を東大の問題に具体的に当てはめてみよう。
この英文は2つの段落から成り立っていて、第1段落に「通説」が紹介され、第2段落に通説を論破する筆者の主張が書かれている。それぞれの段落の流れを一覧にしてみよう。

第1段落
(1)世界には約5,000の言語があると推定されている。(話題文--これから言語の話をする)
(2)言語学者はこのうちの半分は次の半世紀のうちに消滅するだろうと考えている。(通説)
(3)いずれ世界は英語と中国語の2大言語に支配されるときがくるかもしれない。(通説に従った場合にもたらされる結果1)
(4)それは非常に残念なことだ。なぜなら言語はそれを話す民族の歴史や経験などが凝縮されているからだ。(通説に従った場合にもたらされる結果2)
第2段落
(5)しかし通説は、人間が言語を失う一方で、言語を作り出す傾向をもっていることを見過ごしている。
(6)例えば、世界の共通語になっている英語の方言が世界各地で作りだされている。
(7)言語学者は英語の方言であるピジン語を独立した言語と見なしている。
(8)言語が失われる一方で独立した言語が生まれているのだから、半世紀以内に世界の言語の半分が消滅するという通説はおかしいのではないか。(筆者の主張)
さて、上記の段落の流れを念頭に置いて与えられた英文を60~70字の日本語で要約をしなければならないが、最大70字という字数は決して多いものではないから、余計なことを書くとすぐに制限字数をオーバーする。だから、段落の流れをしっかり見据えて、エッセンスだけを書かなくてはいけない。
エッセンスは、第1段落は(2)であり、第2段落は (5)と(8)である。従って、この3つの段落をまとめるだけで要約問題は完成する。ただ、ここが東大らしい問題なのだが、第1段落では (3)と(4)という夾雑物(きょうざつぶつ)がある。夾雑物とは「あるものの中にまじりこんでいる不純物」のことだ。通説の中核的な主張は「半世紀以内に現在の言語は消滅する」ということだ。その結果どうなるか。いずれ支配言語は英語と中国語の2つになるかもしれないし、そうなれば失われた言語が体現していた民族の歴史や経験が失われてしまうかもしれない。
これは一種の脱線であって、要約する場合には夾雑物になってしまう。従って、この部分を仮に答案に書いたら、「通説→筆者の反論」という対立構造がうまく出ない可能性がある。特に、(4)の部分は、受験生なら重要なことが書かれていると思って、全体の流れを無視して、思わず答案に書いてしまいそうな箇所なのだ。
(4)の部分を書いてはいけない理由は、第2段落を分析すれば容易にわかる。第2段落にはもっぱら「方言」のことが書かれていて、言語の体現している民族の歴史や経験などについては一言も触れられていない。なぜなら、この文の筆者は「半世紀以内に世界の言語は半減する」という通説の中核的部分を論破することを目的としているからだ。脱線などには付き合っていたら、論点があいまいになってしまうのである。そして、第2段落で一番重要な箇所は最後の文である。この文にはrecognizeの目的語がたくさんあるが、その部分を仮に「~」と表し、和訳を「英語の方言」とするなら、次のようになる。
Most linguists now recognize ~ as distinct languages.(たいていの言語学者は英語の方言を独立した言語とみなしている)
つまり、筆者が一番主張したいことは、「現在世界の各地で英語の方言が生まれ、これら方言は、話者どうしでは話が通じないから、独立した言語の要素をもっているし、現に言語学者はこのような方言を英語の方言ではなく、独立した言語とみなしている」ということである。「独立した言語」というところが通説を論破する「かなめ」である。これが書かれていないと、通説を論理的に崩せないのだ。
段落の流れに示した(8)は本文には直接明示されてはいないが、段落の流れから黙示的に述べられていることは明らかだ。ただ、答案にここまで書いていいかどうかは別問題だから、要約する場合の表現には注意を払う必要があるだろう。私の答案をもう一度見ていただきたい。
世界の言語の大半はやがて消滅するとの予測があるが、この予測は、英語の方言から多数の独立した言語が生まれている事実を看過している。(64字)
つまり、「~事実を看過している」程度ぐらいでおさめると、原文から飛躍した答案にはならないということである。
以上、東大の問題を例に、要約問題の解き方を説明した。要約問題は、各段落の流れを緻密に分析し、「通説と筆者の反論」という骨太のところに注意を払い、夾雑物を排除することが重要であることがおわかりいただけたと思う。

- be estimated to be ~ = ~ であると推定される。
- depending on ~ = ~ に応じて。
- count A as B = A を B と数える。本文では A は which で、これは which language のこと。
- a handful of ~ = 一握りの; 少数の。
- well over half of all these languages = これらの言語の優に半分以上。wellは副詞で「優に」の意味。
- Ge’ez = ゲーズ語; 古代エチオピア語。
- extinct = 絶滅した;消滅した。この文は、生物ではなく言語を語っているのだから「絶滅した」という訳語は不自然。
- in the sense of ~ = ~ という意味で。
- The time may come … の文。 この文には it has even been suggested という挿入節がある。通常の文構造なら、It has even been suggested that the time may come when the world will be dominated by just two languages となるところ。when 以下は関係副詞節で、先行詞は the time。even には「消滅する言語は半分どころかさらにそれ以上になるよ」という気持ちが入っている。
- on present performance = 現在の利用実績に基づけば。performance にはいろいろな意味があるが、ここでは「実行」とか「運用」の意味。要するに世界でどの程度使用されているかをいっている。ただ「実行」や「運用」では日本語としてやや違和感があるので、全訳では「利用実績」とした。
- fragments of the past = 過去の断片。
- for languages represent the history of peoples, the accumulation of their experiences, their migrations and the invasions they have suffered. この文は represent の目的語がどれかを確定する必要がある。可能性として考えられるのは、次の2つ。まず represent A, B, and C と考えることができる。この場合の A、 B、 Cは、A = the history, B = the accumulation of their experiences, C = their migrations and the invasions they have suffered である。C はさらに their migrations と the invasions they have suffered に分解することも可能だが、suffer という動詞は不快な事柄を体験することであり、migration(移住)も不快な事柄であろうから、C は2つに分解しないほうがよいと思われる。もう1つの捉え方は、represent A and B とする考え方だ。この場合の A、B は、A = the history of peoples, B = the accumulation of their experiences, their migrations and the invasions they have suffered である。B をもっと詳しくみるなら、B = the accumulation of X, Y となり、X = their experiences, Y = their migrations and the invasions they have suffered である。以上の2つの考え方のうち、どちらが妥当か。私は、後者つまり represent A and B が妥当だと考える。その理由は、「移住(migration)」や「侵入(invasion)」が migrations、invasions と複数形になっており、これら複数形は「蓄積(accumulation)」という言葉と親和性があるからだ。一回切りのものを「蓄積」とはいわないであろう。
- pidgin English = ピジン英語。元来は、極東(Far East)において、英語を話す貿易業者と中国語を話す貿易業者の間で交わされた通商のための補助言語で、英語と中国語の混成語であった。pidgin という言葉は、中国人が英語の business を誤って発音したことに由来するという。現在では、ピジン英語の変種が現れており、pidgin African English などもある。英語以外の別の言語と現地語が混成する場合もあり、その例としては、本文に紹介されている以外にも、pidgin Spanish, pidgin French などがある。
- Creole = クレオール語。英語やフランス語やポルトガル語のようなヨーロッパの言語と現地語が混成した通商語を特にクレオール語と呼ぶことがある。
- distinct language = 独立した言語。ある言語の方言ではなく、もとの言語から独立した別個の言語であるということ。


どの言語を方言と数え、どの言語を独立した言語と数えるかにもよるが、現在の世界では目下のところ約5,000の言語があると推定されている。おそらくこれらの言語に、今でも学校で教えられていたり(古代ギリシャ語やラテン語)、あるいは礼拝などで使用されている(サンスクリット語やゲエズ語)一握りの「死」語を付け加えることもできよう。言語学者たちは、これらの言語の優に半分以上は次の半世紀以内に、母語を話す人がいなくなるという意味で、消滅するだろうと予測している。それらの言語は大半が、現在母語を話す者が1,000人に満たず、そのほとんどがすでに高齢になっているような言語である。さらに、消滅する言語が半分にとどまらず、世界はたった2つの言語に支配される日がやってくるだろうとまで言われてきている。現在の利用実績から考えるならば、この2つの言語はほぼ確実に英語と中国語になるだろう。もちろん、これらのすべての言語が失われてしまうことは遺憾なことであろう。これらの言語を失うとき、私たちは私たちの過去の断片をも失ってしまう。というのは、言語は諸民族の歴史ばかりでなく、彼らの経験、他地への移住、そして彼らが受けた他民族の侵入の蓄積を表しているからだ。
しかし、上記のような観察は人間の行動の興味深い1つの特徴を見過ごしている。つまり、私たちには、言語を失う速さに劣らぬ速さで新しい方言を作り出す傾向があるということだ。英語は世界中に広まり、すべての大陸で国々の公用語になっているばかりでなく、貿易、政治、科学の共通語にもなった。だがそれと同時に、話し手が互いにほとんど理解することができない多くの方言も発達した。たいていの言語学者は現在ではピシン(ニューギニアの「ピジン英語」)、黒人英語の土地言葉(アメリカの主要都市で主に黒人によって話されている英語の一種)、カリブ人のクレオール語(カリブ諸島の英語)、クリオ(西アフリカシオラレオネのクレオール語)、さらにはスコットランド英語(スコットランドの低地地方で話されている英語)なども独立した言語として認めている。

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